これまでのこと

私はがん患者です。
ある日突然、美容トレーナーの佐藤さんからがん患者の佐藤さんへ変身。

それは自分自身の変化でもあるけれどまわりの変化も伴います。
日常生活は大きく変わる。
生活習慣も少しずつ変わっていく。
仕事への意欲も人間関係も未来への希望も変わった。
そして一番多きな変化は見た目の変化。
ひと月ほどの間に2度の手術で体に大きな傷を持ち、更に抗がん剤治療による副作用で見た目の変化が襲いかかる。
「大丈夫!」「頑張って!」「生きてるんだから何とかなる!」
月並みなメッセージはまわりの人たちが心から振り絞って出してくれる言葉。
しかしそれさえも素直に受け止めることが出来ない程に心まで病んでいく自分を見つけてしまった。

外見の変化に比例するようにその心は塞がれていく。
美容を生業としてきたのにも関わらずなす術が見つからない。
そんな時、同室になった友人たちとアイデアを出し合い実行すると、それまでの大きな変化は簡単なカモフラージュで健康的な私たちを作り出した。

これだ!
見た目をキレイにしたい訳ではなく、元に戻したい訳でもない。
ただ健康的でがん患者に見えないようにしたいだけ。
そしてそれを語り合う仲間がいる。
夢や希望を共有出来る時間がある。
それが原動力になった。

これまでの長い美容者としての経験はがんになった事で消え失せるのではないかとも感じていたが、それが誰かの力となり自分たちの道標となったとき、
闇に包まれていた時間は光を満ちはじめた。

入院中にずっと先の、遠い未来の計画を立てはじめていたが
それが現実になったのはそれから一年もしないときだった。
友人たちの終わりの未来が遠いところではなく、近くに押し寄せはじめたからだった。
焦りがあったのかもしれない。
夢を少しでも叶えたかったのかもしれない。
動けるのは自分だけ。
とにかく動いた。
みんなの分も動いて一日も早く、夢を現実にしていきたかった。

それが完成した翌日、安心したように完成したセレナイトのスタートラインを見届け、このプロジェクトを考えたひとりが旅立った。

それから暫く裏方として心強いサポートをしてくれていた二人も旅立った。

ひとりになり何が出来るのか。
どうすることが正解なのか。
元の美容の世界の戻った方が楽なのではないか。
いや、この1年間何のためにがむしゃらにここまで進んできたのか。
様々な想いが交錯しまた時間が止まった。

そこにサポーターたちの言葉が届いた。

続ける。
そう決心をしたのも束の間、何度となく挫折心が覗いてくる。
強くない人間代表のような私。
弱い人間代表の私。
何度となく自分との闘いが続く。
未だにその心は見え隠れするが少しはコントロール出来るようになっているのかもしれない。

がんを商売にしている
あなたのやっていることはどこでもやっている
思いつきではじめていい商売だね

苦しさに大きな石を落とされることだってある。
弱くなるのが普通。
普通でいい。

そんな普通の私だからこそやれることがある、きっと。
それがセレナイトでありこれからのこと。

がんになることで大好きだった美容やファッションを諦めざる得ない。
がんになって副作用が出たけれど、いままで美容なんて興味なかったからどうしたらいいのか全くわからない。
病院では治療が終れば元に戻るからと言われるが今どうにかしてほしい。
人目がこんなに気になるなんて想像もしなかった。
こんな姿になって家族に迷惑をかけているのではないか。
いつになったら前のように戻れるのか。
この治療が続くかぎり一生このままなのか。

そんな苦しい想いの中で
一人ひとりに向き合ったアドバイスやサポートが出来る経験を何度もしてきた。
人にメイクをして笑ってもらうことが好きだった少女時代、
スキンケアでその人の生き方が変わるのを目の当たりにしてきた美容の世界。
そして大きな外見の変化がもたらす心への大きな負担は
その見た目をカモフラージュし、日々のお手入れを楽しみのひとつに組み込むことで未来が大きな色を付けることを知ったがん治療の経験。

あなたのこれまでの経験はこれからのがん治療をする人に大きく活かされる。
そう言ってくれた医療者の存在がここまで導いてくれた。

そしてセレナイトのお客様たちの笑顔に変わる瞬間や温かいメッセージ、ご家族やご友人からの感謝の言葉は大きな力となった。

がん治療を経験し、独立しても度重なる挫折。
それを幾度となく経験し、今新しいスタートをきる。